固くて四角い建物の谷間をすり抜けたのはうっすらとむこうの空が透けて見える巨人
ああなんかでっけえのがいると気づいたガキのつぶやき
傍らには年老いた靴みがき
その指は人の足に耳を傾ける
黄金色いちょう並木
長椅子に腰掛ける紳士が目を細めながら新聞を広げる
数センチ角の記事を熱心に読みふける
すいませんちょっと火貸してもらえませんか
目を引く事件はありますか
ときどき錯覚したりはしませんか
誌面を彩る事件の数々がどれもこれも
例外なく自分に関するものであるとでもいうような
そしてときどき
想像したりはしませんか
いつだかの些細な過ちが誌面の隅を控えめに埋めていたとしたら
営団地下鉄エドガー橋駅A1出口で見かけた生まれつき後ろ足の片方がない猫はすれ違う四本足を多すぎやしないかと不思議そうに眺める
折れた傘の骨にギブス水浸しの新聞
何度も読み返す本に書かれていること
哀れなのは朽ちて穴の空いた琺瑯の看板
吹きさらしのトタン
よろつく蜜蜂
紳士は応える、それはたとえばどんなことか
罪と呼べるものか、あるいはただの傷か
ふむ、そのどちらもです
罪にしても傷にしてもひとつの物事を
こちら側から見るか、それともあちらから見るか
あるのはおそらくその程度の違いです
うしろめたさを痛みと呼んで差し支えなければ
そういう条件つきではあるけれど
それにしてもとかくものが真鍮に映りがちな実りの頃だ
枯葉のひしめくU字溝がひどく窮屈そうな列車にも見える
大人びた視点だ良くも悪くも
屋上に不時着した給水塔の側面に釘で引っ掻いて描く鳩の足跡
それもいいこんなささやかなところから湧き出した水のように願いが広まっていくのなら
過ちというにはあまりにも拙い
けれどそう思うからこそ苛まれることがままある
よく見かけた人を昨日今日にみかけた
そんな感情の凹凸にけつまずいたくらいで
大きく揺さぶられる方がどうかしている
紳士は新聞を折りたたんで言う
それはかけがえのない時間に対する侮辱じゃあないのか
その通りだ
反論の余地なんてまるでない
いいえと首をふる理由も特に無いのに
気を持たせれば、それだけで答えが赤く熟す
そうとばかり思っていた頃の話を
今更振り返ることで一体何になるだろう
それはかつて至近距離にいた人のなごり
それでいて今とさほど変わりのないへだたり
心中お察ししますとある過去からの手紙
破くのも手間だ思案にくれる
営団地下鉄エドガー橋駅A1出口で見かけた生まれつき後ろ足の片方がない猫は
忘すれ違う四本足を多すぎやしないかと不思議そうに眺める
折れた傘の骨にギブス水浸しの新聞
何度も読み返す本に書かれていること
哀れなのは朽ちて穴の空いた琺瑯の看板
吹きさらしのトタン
帰りそびれた蜜蜂
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