黒男
中村一義
深夜、午前0時。あの鐘が響く。
それと同時に奴が現れる。
まばたきもせずただ、行く先を睨む。
真紅のスカーフ以外の容姿は、ほぼ黒ずくめ。
で、今日の正午0時。あの鐘が響く。
それと同時に人は噂する。
「格が上の者であれ絶対、食ってかかる。
鋼鉄より頑固なあいつは、あの黒ずくめ。」
未来なんて思い通り? って、バカ言っちゃ困る。
そうさ、未来だってどこだってな、奴はついて回る。
そうさ、未来は君が思うよりも、本性を暴く。
故に、未来は君が思うよりも、ほら奴を好む。
『黒男』と呼ぼう、彼を。
明日の午前0時。また鐘が響く。
それと同時に俺は奴と話そう。
背に迫る、奴の足音だけを聞く。
「今だ!」と振り返っても、誰もそこにいない。
時代なんて思い通り? って、ホラ吹いちゃ困る。
そうさ、時代なんていつだってな、奴はそこにいる。
そうさ、時代は君が思うよりも、空っぽを叩く。
故に、時代は君が思うよりも、ほら奴を好む。
『黒男』と呼ぼう、彼を。
『黒男』って名の、俺と。
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